XELAのチラシの裏

Twetterで長文投稿ができないので開設、主にチラシの裏的なことを、生活の何かの役に立てば、アニメの知識に関しては地上波アニメを見ている程度、昔は3DCGとかGIFアニメとかも作ってた(才能がないので断念)

鉄コン筋クリート今更な雑感 -ケムリクサを添えて-

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海獣の子供」が公開されるので東京MXで「鉄コン筋クリート」が放送された。

原作者の松本大洋は「ピンポン」などの代表作で知られる、アニメ版や映画版もとても良い出来だったのを覚えている。

 

さて、「鉄コン筋クリート」は面白かったのだが、公開当時の18歳ごろの自分が見たのであればシロとクロの活劇だけで見て評価してしまったのかもしれない。

その時の自分であれば、躍動感があるがハッピーエンドではなくモヤモヤとした内、後半に関しては心象風景ばかりでテーマ性の薄い気持ちの悪い作品だった。

というように話してしまうだろう。

 

しかし、ケムリクサの物語の多層構造をというものを触れるとと「鉄コン筋クリート」はまた違った視点で面白いのである。

シロとクロの関係、ネズミとイタチの関係両方の視点で見るとこの物語は「深み」のある物語だったと感じ、この物語のテーマもわかってくるのである。

この映画のテーマは「押し寄せる時代の流れにどう向き合うか」だと感じた。

 

(以下ネタバレあり)

「オレの町」がオレに盾突く

映画をすべて見終わった後、再び映画冒頭の「オレの町だ!」というセリフ、実はクロではなくイタチのセリフだったのかもしれない。

 

舞台である宝町は決してパラダイスではない、下町情緒と言ったら聞こえはいいが、暴力団カラーギャング、不良少年が跋扈しどこか薄暗い雰囲気のする街であった。

主役であるクロは不良少年であり腕っぷしも強くまさしく町の守護者であった、相棒のシロとケンカしながら変わらない日常を送るのである。

 

しかし時代の流れは許さなかった、「蛇」が街の暴力団と一緒に「子どもの城」というテーマパークを開発する計画が持ち上がる。

子供に有害なストリップ劇場を潰し、古く汚い家を打ち壊し区画整理を行い、新しく美しい、そして楽しく健全な「子どもの城」

 

「蛇」はこの町にとって「正義の味方」になっているのである。

 

街の暴力団の一人「ネズミ」は子供の国に対して反対だった、しかし、正義の味方に悪は勝てない、どんどん孤立していく。

シロもクロも蛇の刺客によってどんどん追い詰められていく。

いくら町の守護者であっても、この町にっとっては「ただの不良少年」なのである。

 

「オレの町」がどんどん得体のしれない化け物に変わっていく。

 

「シロとクロ」と「イタチとネズミ」

鉄コン筋クリートの登場人物はどれもダメな人間ばかりである。

不良少年で無鉄砲なクロ

どこか虚言癖があり頭が足りないシロ

向上心を失い中途半端な身分のネズミ

人の弱みに付け込み力で脅す蛇

クロにすら勝てず長いものに巻かれていく木村

不良少年や暴力団を何もできず野放しにしている警官藤村

 

そんなダメ人間たちが変わりゆく時代の流れに対してどう向き合ったのだろうか?

蛇は時代の流れに乗り力と知力を発揮し波に乗った

藤村は蛇の横暴を止められず波を見つめることしかできなかった

木村は蛇の波に乗るしかなかった

シロは波に呑まれ藤村のもとに行きついた

そして、ネズミとクロは波に抗い、蛇とその刺客と対立した

 

映画のところどころに魚や海のシーンが入るが、まさしく時代の流れを表しているように見える。

 

結局、時代の流れには勝てず「子どもの城」は完成する。

 

クロは、シロと別れ、より暴力的な「イタチ」に変貌しつつあった、そしてネズミと出会うのである

 

イタチとネズミ、言葉数は少ないがこのシーンは印象的である。

 

お互い町を守るために頑張ったのに報われないどころか後ろ指をさされる、この似た境遇の二人が出会うのは、なんとも哀愁を誘う、二人とも抗うのに疲れているように見えるのである。

 

どこかで「終わり」を見つけたい、そう見える。

ネズミがイタチを抑え、シロがクロを導いていった

ネズミは木村に拳銃で打たれて死んだ、そしてクロが立ち寄りタバコを添える

クロは子どもの城に現れ蛇の刺客と最後の勝負をする、その時ついに「イタチ」が目覚める。

イタチは刺客を殺し、子どもの城を炎に変えていった、そしてクロと対峙した

映画のシーンではクロとイタチが対峙しシロの声に導かれてイタチを抑える

 

しかし、実はネズミこそがイタチを抑える重要な役目のように見えた。

 

イタチはクロにとっては「神」なのである、全知全能の力の存在、「オレの町」を取り戻すための最終兵器である。

「シロの野郎は偽善の代表者、いつも俺達の邪魔」というのは変化に適用するシロへのジェラシーのようにも思える、イタチから見るとシロは時代の流れにシッポを振り「オレの町」を見捨てたガキに見えたのである。

 

それでもクロは「神」を拒んだ、藤村に保護されながらも頑張って前に進もうとするシロに感化されたのかもしれない、自分もシロのように前向きになれるのではないかと。

でもそれだけではない、自分よりも大人で権力もあるネズミが殺されたのを見て「力」の虚しさを覚えたのである、自分がイタチになっても最後はネズミのように一人寂しく死ぬのではないかと。

 

ネズミの死は無駄ではなかったのである

 

物語の最後は海で終わる、クロは海に潜り鮮やかな海を泳ぐが、ある境目から暗く深い海と対峙するのである、これはまさしくイタチとの対峙である。

そして暗い海に潜りこみ、底にあるアクセサリーを広い海から上がる、イタチの言い分も少しは認めているようにも感じた。

結論:ケムリクサはすごい

鉄コン筋クリート」は深みのある作品だった、シロとクロの冒険活劇のを進めつつ、時代を変えようとする蛇、それに抗うネズミとクロの物語を後ろにひそめるのはさすが松本大洋氏である。

 

ピンポンにおけるペコとスマイルの青春物語、ペコ、ウェンガ、ドラゴンの熱血スポコンの両立と言ったところか。

 

数々の映画賞に挙がるだけはある。

2006年公開なのに全く色あせているようには感じなかった。

 

しかし、いまいちイタチとネズミの物語の導線がかなり弱すぎる、イタチの存在を匂わせるのはもっと強くてもよかったかもしれない。

さらに刺客やクロの能力の説明も全くなされていなかった、結局特殊能力なのか躍動感のある演出だったのか分からずじまいだった。

また、イタチとクロが同時に出ているのは自分にとって混乱してしまったのでこれはいただけない、そのまま心象世界に入ってしまったので途中から引き込まれなくなってしまったのは惜しい、演じた二宮和也蒼井優のタレント力で補ったといったようにも見える。

 

そう考えるとケムリクサは引き込み方はすごかった、1話で能力の説明、ラブロマンス、SF、死への物語の風呂敷を広げていき10話までそれを調和させ、11話で一気に一つにまとめ上げていった、あれほど素晴らしく、美しいものはない。

「シロとクロ」の関係性も「りんとわかば」と通じるものもあるし、「イタチとネズミ」も「りんとリリ」の関係と似ている気がする。

 

 

ケムリクサを見なかったら未だに冒頭の文章で記事を終えていたのかもしれない。

いやはやケムリクサには感謝しかない。

もちろん鉄コン筋クリートは2時間映画、ケムリクサは6時間アニメなので比較にはできないのだが。

これほど、深い内容の原作を美しく仕上げたSTUDIO 4℃最新作「海獣の子供」は2019年6月7日いよいよ公開です(なぜかダイマ)